『ルナシー』

精神病院で母親を亡くし、悪夢にうなされるジャン・ベルロ
生き埋めにされた母親と同じカタレプシー(硬直症)の症状をもつ侯爵
神を冒涜し、快楽を追及する礼拝堂での禁断の儀式
拘束服も電気ショックもない自由な精神病院
聖女のような微笑を放つ、虚言癖の淫売女、シャルロット
侯爵に導かれるままベルロが目撃した世界とは…。

ヤン・シュヴァンクマイエル久々の長編作品『ルナシー』。
常々「あたしってぇ、割とアートな人じゃないですかー。だからシュヴァンクマイエルとかちょう好きでー。」と三流デザイン専門学校卒(美大に落ちたのがコンプレックス)の元オリーブ少女(ベレー帽とボーダーが大好き)にして理想と現実の折り合いがつかないデザイン会社勤務(社員4人、事務職兼務)の30歳喪女(仕事で一度だけ会ったことのあるカリスマクリエーターの名刺が宝物)みたいなことをぬかしているニコ子さんですが、実は公開されていることも全然知らず、焦りに焦って終了前日に滑り込みで見て来ましたよ。
単館とはいえ、11月の中旬から2ヶ月以上やってるってなかなか凄いね。人気あるんだなぁ。おかげで間に合ったてよかったよかった。

予告編のわけのわからなさとポスター類の禍々しさにワクテカしつつ、映画サイトなどではジャンルが「ホラー」となっていることにハテハテと思っていたのですが、映画冒頭にヤンじいさんご本人が登場し「この映画はホラーである。」と自ら宣言されるんですね。サド侯爵、ポー(「早すぎた埋葬」)、精神病院…というある意味古臭いモチーフをベースに、ちょっと説教臭くて(…哲学的ってゆうの?)絶望的なストーリーが展開します。
口の中を丸見えにする侯爵の世にも不快な笑い声、全身に羽毛を貼り付けられた精神病院の監視員、夢に現れるニヤニヤ笑いの禿坊主、必要以上に大きな湿った物音、合い間合い間に画面狭しと這いずり踊り絡み合う舌・眼球・脳・骨そして肉片。気持ち悪くて、でもどこか滑稽なグロテスクで美しい悪夢の世界はいかにもシュヴァンクマイエル的でにんまり。
オープニングに出てきたカードや、途中のすごろくはもう1回よく見たいな。カードが治療の絵になってるんだよね?13段階目は何だったんだろう…。
そいえば『ルナシー』完成後、エヴァ(ヤンの奥様・美術担当)亡くなられたんですね。前作あたりから、エヴァの作品が映画自体に与える影響がどんどん強くなってきたような気がするので今後どうなるか気になります…。『オテサーネク』の絵本とかちょう良かったもんなー。

もっと、どシュールなものを想像していたので、わかりやすくて拍子抜けた。わからないつもりでいたので。でもいやーな話で面白かったな。とりあえず、肉が食べたくなりましたよ。ユッケとかナマっぽいやつ!
そういえば、映画見ながらマクドナルドのセットをもしゃもしゃ食べてる女の子たちがいてびっくりした。大きな映画館ではよくある風景ですが、単館系ではあんまり見たことない。よくあることなのか。つかシュヴァンクマイエル見ながらハンバーガーってけっこう凄いと思う。…いや意外に合うかもなー。肉肉肉肉。こんど試してみよう(家で)。